SNSで美容アカウントを運用しているインフルエンサー(美容垢)の方が、PR投稿時に気を付けなければいけない法律といえば「薬機法」ですよね。
薬機法を気にしなければいけないことは分かっていても「薬機法は難しい気がするし、何をどうチェックしていいか分からない……」と、そんなお悩みを抱えているのではないでしょうか?
ここでは、薬機法管理者でありながら美容アカウントでPR投稿をしている筆者が、SNSで化粧品(特にスキンケア類)のPR投稿をするときに薬機法をチェックするポイントを分かりやすく解説していきます。
- PR投稿を自分の思うままに書いてみる
- 自分の投稿が「広告の3要件」に該当するのかを確認する
- PR商品の属性(医薬部外品かどうか)を確認する
- 効能(効果)範囲表を見ながら、効能以上のことを書いていないかをチェックする
- 薬機法の広告規制事項に該当していないかをチェックする
- もう一度PR投稿を読み、全体を通して誤解のない表現になっているかを確認する
この記事の作成にあたり、薬機法に詳しい弁護士の髙沢さんに監修していただきました。髙沢さんのプロフィールはこちら。
髙沢 晃平 弁護士
薬機法、医療法、景表法等の専門性が高い分野を扱う。法務コンサル、契約書・広告チェック。X(旧Twitter)ではフットサル好きの弁護士として発信。
Contents
PR投稿を作成する
まずは、依頼ガイドライン通りにPR作成をしてみましょう。指定ハッシュタグなどもクライアントから依頼されたままでOKです。
この段階では薬機法を意識せずに、書きたいことを書きたいままに書いてください。
あまりにも薬機法を意識してしまうと伝えたいことが伝わらない投稿になってしまうので、とにかく自由に書きましょう。
「広告の3要件」に該当するかを確認する
PR投稿を作成したあと1番最初に確認していただきたいのが、その投稿が薬機法が規制する「広告であるか?」ということです。
PR投稿はすべて「広告」(以下単に「広告」といいます。)であると認識されがちですが、実際は「広告」に当たらず薬機法の適用外になる投稿があります。
ここでは自分が書いたPR投稿が「広告であるか?」確認していく作業をしましょう。
広告の3要件とは?
薬機法では、下記の3要件を満たす場合は「広告」に該当するとみなされています。
薬事法における医薬品等の広告の該当性について
- 顧客を誘引する(顧客の購買意欲を昂進させる)意図が明確であること。
- 特定医薬品等の商品名が明らかにされていること
- 一般人が認知できる状態であること
誘引性
顧客を誘引する(顧客の購買意欲を昂進させる)意図が明確であること。
つまり「商品を販売したい」「売りたい」という意図が客観的に明確である場合は「誘引性がある」と判断されます。
- アフィリエイトリンクがあるPR投稿
- インフルエンサーのPR投稿
- 商品販売ページに誘導するWebサイト(ブログ)
等が該当します。
インフルエンサーの定義は、フォロワー数でいうと数千人以上~と言われております。今後、自身のアカウントのフォロワー数を伸ばしたいと考えているのであれば、今から薬機法を意識した投稿を心がけることをお勧めいたします。
明示性(特定性)
特定医薬品等の商品名が明らかにされていること。
この要件は総合的に判断されますが、商品名が明らかにされている場合は「明示性がある」と判断されます。
SNSのPR投稿では基本的に商品名を明かすため、美容垢さんの投稿は自動的に明示性があると判断されます。
これを逆手に取り、商品名を明かさなければ薬機法の適用外となることを利用した投稿も散見されます。この要件は総合的に判断されるため、薬機法の知識がない場合はこの手法は使わないほうが無難です。
一般性
一般人が認知できる状態であること。
ここでの「一般人」とは「自身以外の誰か」のことを指します。
SNSをいわゆる「鍵垢」で運用している場合でも、自分以外の誰かが見ることが出来るのであれば「一般性がある」と言えます。
商品の属性を確認する
薬機法で1番気をつけて見ていただきたいポイントが商品の属性です。
PR投稿する商品が「一般化粧品(医薬部外品の承認を得ていない化粧品)」であるのか、「薬用化粧品(医薬部外品の承認を得た化粧品)」であるのかの確認をしましょう。
医薬部外品の場合はパッケージや化粧品ボトルの裏面に四角囲み文字で「医薬部外品」と表記されているので、簡単に判別可能です。
参考:「医薬部外品」の表示例
韓国コスメの場合、「機能性化粧品」という日本の薬機法でいうところの「医薬部外品」的立ち位置の化粧品があります。しかし、そのほとんどが日本で「医薬部外品」の承認を得ていない場合が多く、日本の「医薬部外品」と同様の訴求はできませんのでご注意ください。
韓国コスメでも日本に【製造販売元】を置き、医薬部外品としての審査が通れば「医薬部外品」として販売でき、訴求できる範囲も拡がります。
薬機法では「一般化粧品」か「医薬部外品」かで言えることが大きく変わりますので、ここは要チェックです。
一般化粧品か医薬部外品か確認が出来たら、以下を参考に訴求できる範囲を確認しましょう。
一般化粧品の場合:医薬部外品ではない化粧品
一般化粧品では56の効能範囲表に従い、その効能を超える表現にならないようにすることが求められます。
「超える表現にならない=言い換えができる範囲であること」だと認識すると理解しやすいはずです。
例: (24)皮膚にうるおいを与える→保湿力がある 等
効能範囲表の内容すべてを覚える必要はありませんが、いつでも確認できる状態にしておくと便利です。
薬用化粧品の場合:医薬部外品である化粧品
一般化粧品の56の効果範囲表に記載のある表現プラス、承認された事項であれば以下の表現を使うことが出来ます。
- スキンケア類で「にきびを防ぐ」の表現が認められる
- 「メラニンの生成を抑え、シミ・そばかすを防ぐ」という美白表現が認められる
- 薬用せっけんで「皮膚の殺菌・消毒」「体臭予防」の表現が認められる
また、近年認められた表現として以下の表現があります。以下の表現は、使える製品が限定的であるため、承認を得た製品のPR投稿以外では使えないものであると認識してください。
- 皮膚水分保持能の改善(ライスパワー®No.11/勇心酒造株式会社)
- 皮脂分泌を抑制(ライスパワー®No.6/勇心酒造株式会社)
- メラニンの蓄積を抑え、シミ・そばかすを防ぐ(大塚製薬/POLA)
- シワ改善
「医薬部外品」であれば、何でも「シワ改善」が言えるわけではありません。医薬部外品としての申請を行い、効能効果の承認を得た範囲での表現が可能になります。例えば「美白」で承認を得ていても「シワ改善」が言えるわけではありません。
禁止表現をしていないか確認する
薬機法では、以下のような広告が禁止されています。美容垢さんが特に意識するべき禁止事項や注意点は以下の6つ。
- 誇大広告の禁止
- 他社誹謗広告の制限
- 医薬関係者等の推せんの禁止
- 特許表現の禁止
- 恐怖訴求の禁止
- ビフォーアフター写真を使うときの注意点
禁止事項に該当する内容がないか確認し、断定表現を避けたり柔らかい表現にすることで禁止事項に該当しないように書き換えてください。
誇大広告の禁止
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
2 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。
3 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品に関して堕胎を暗示し、又はわいせつにわたる文書又は図画を用いてはならない。
厚生労働省「医薬品等の広告規制について」
NG表現例
- 効能効果等や安全性の保証となる表現
- 安心・安全
- 「絶対に安全」等はNG
- 赤ちゃんでも使える
- この日焼け止めを使用すると絶対に焼けない
- 安心・安全
- 56の効能を逸脱する表現
- シミが消えた!
- 毛穴が消えた!
- メーキャップ効果であれば「シミが薄くなった」等のカバー表現は言えます
- ○○が治る
- 癌が治る
- アトピーが治る
- ニキビが治る(医薬部外品でも「ニキビ予防」までしか言えない)
- 身体機能を向上・回復させるような表現
- ターンオーバーを正常化する
- 代謝を高める
- 若いころの肌がよみがえる 等
- 最大級表現
- 「最高」などの「最~」という表現
- 最先端の製造方法
- 「神」「抜群」「絶対」「完璧」
- この成分、絶対良いよ!(成分の誉めあげの禁止) 等
他社誹謗広告の制限
9 他社の製品の誹謗広告の制限
厚生労働省「医薬品等適正広告基準の改正について」
医薬品等の品質、効能効果、安全性その他について、他社の製品を誹謗するような広告を行ってはならない。
他社商品を誹謗する表現は明示的・暗示的関わらず禁止されています。
NG表現例
例: A社:PR依頼を受けたクライアント / B社:他社
- 明示的である場合
- A社の商品はB社のコラーゲンセラムよりも良い
- A社のコラーゲンセラム、他社のものより良い
- 暗示的である場合
- A社の商品はコラーゲンセラムの中で1番良い
製品同士の比較広告を行う場合は、自社製品の範囲で、その対照製品の名称を明示する場合に限定し、明示的、暗示的を問わず他社製品との比較広告は行わないこと。この場合でも説明不足にならないよう十分に注意すること
厚生労働省「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」
「A社従来品○○と比べ、さらに○○という成分が追加され~」等、自社製品と比べるのは問題ありません。
美容垢さんはA社に所属しているわけではないと思いますが、PR投稿をする時点ではあなたもA社の一員であると認識して良いでしょう。他社誹謗をしないためには、他社の存在を匂わす内容の投稿はしないようにしましょう。
医薬関係者等の推せんの禁止
10 医薬関係者等の推せん
医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効能効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体が指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行ってはならない。
ただし、公衆衛生の維持増進のため公務所又はこれに準ずるものが指定等をしている事実を広告することが必要な場合等特別の場合はこの限りでない。(1)医薬関係者の推せんについて
厚生労働省「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」
本項は、医薬品等の推せん広告等は、一般消費者の医薬品等に係る認識に与える影響が大きいことに鑑み、一定の場合を除き、例え事実であったとしても不適当とする趣旨である。
「公認」には、法による承認及び許可等も含まれる。
○○専門医である○○医師と共同開発
厚生労働省認可(許可・承認)等の表現もこれに当たるため使えない表現です。
特許表現の禁止
特許について
「特許の表示について」(昭和39年10月30日薬監第309号厚生省薬務局監視課長通知)
特許に関する表現は、事実であっても本項に抵触し、事実でない場合は虚偽広告として取扱う。
なお、特許に関する権利の侵害防止等特殊の目的で行う広告は、医薬品の広告と明確に分離して行うこと。(特許に関しては表示との取扱いの相違に注意:
広告では「特許」に関しての言及は一切禁止です。
恐怖訴求の禁止
12 不快、迷惑、不安又は恐怖を与えるおそれのある広告の制限
広告に接した者に、不快、迷惑、不安又は恐怖を与えるおそれのある表現や方法を用いた広告を行ってはならない。(1)不快、迷惑、不安又は恐怖を与えるおそれのある表現について
厚生労働省「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」
例えばテレビ等において症状、手術場面等の露骨な表現をすること、医薬品等の名称等についての著しい連呼行為等、視聴者等に対して不快感を与えるおそれのある表現又は「あなたにこんな症状はありませんか、あなたはすでに○○病です」、「胸やけ、胃痛は肝臓が衰えているからです」等の不必要な不安又は恐怖感を与えるおそれのある表現をすることは認められない。
過度なコンプレックス訴求表現は禁止されています。
ビフォーアフター写真を使うときの注意点
効能効果等又は安全性を保証する表現の禁止
医薬品等の効能効果等又は安全性について、具体的効能効果等又は安全性を摘示して、それが確実である保証をするような表現をしてはならない。また、使用前後等の比較に使用される写真は、同一条件で撮影されたものであり、作為的な操作が加えられていないものでなければならない。図面、写真等について
厚生労働省「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」
使用前、後に関わらず図面、写真等による表現については、承認等外の効能効果等を想起させるもの、効果発現までの時間及び効果持続時間の保証となるもの又は安全性の保証表現となるものは認められない。
化粧品の広告では効能効果の保証につながるような表現を図面や写真等を用いて表現してはならない。
例:日に焼けた肌と焼けてない肌の写真を用い、比較するようなビフォーアフターで「この商品を使うと肌が白くなった!」等
効果発現までの時間を保証する表現
例:乾燥した肌と潤った肌を比較するようなビフォーアフターで「たった2週間で肌の水分量が上がった」等
効果持続時間を保証する表現
安全性を保証する表現
PR投稿全体を確認する
以上のチェックをしつつ、適宜書き換えを行います。一文一文をチェックしながら、全体としてのチェックも必ず行いましょう。
また、ハッシュタグにも要注意!一般化粧品なのに「♯ニキビ改善」「♯シワ改善」などは言えないので、指定ハッシュタグに含まれている場合は削除しましょう。
「ハッシュタグを勝手に削除して怒られないの?」という疑問が出てくると思いますが、安心してください。私は今までのレビューで、薬機法違反になるようなハッシュタグはこっそり消しているのですが、怒られたことはありません。もし、何か言われた場合でも「薬機法違反になるためハッシュタグ群から外しています」とだけ伝えてください。
まとめ
- PR投稿を自分の思うままに書いてみる
- 自分の投稿が「広告の3要件」に該当するのかを確認する
- PR商品の属性(医薬部外品かどうか)を確認する
- 効能(効果)範囲表を見ながら、効能以上のことを書いていないかをチェックする
- 薬機法の広告規制事項に該当していないかをチェックする
- もう一度PR投稿を読み、全体を通して誤解のない表現になっているかを確認する
ここまでご覧いただき、ありがとうございます。主にスキンケア類の薬機法のチェックポイントについて解説しました。
なんとなく「薬機法むずかしい……」と感じていた方でも、どうチェックすればいいのか分かった(気がする)のではないでしょうか?
最初は「なんとなく」で構わないので、チェックポイントを確認しながら投稿のチェックを行ってみてください。
薬機法はすべての人が罰則の対象となる法律です。「知らなかった」で済まされない事態を防ぐためにも、PR投稿をするときは最低限でも良いので知る努力をしていただきたいなと思います。