泥色の「洗えないシャンプー」が琥珀色になるまで|美容師が重ねた3年間の試行錯誤

縮毛矯正をすれば、サラサラで指通りのいい髪になる。そう思っていた。
きれいになるためにサロンで縮毛矯正や髪質改善トリートメントメニューを選んだのに、施術を重ねるほど、思い描いていた髪から遠ざかってしまう。
少しでも扱いやすい髪にしたくて、シャンプーを変えてみる。それでも「やっぱり違う」と感じて、お風呂場や洗面台下に使い切れないボトルだけが増えていく――。
髪の悩みに応えられるシャンプーとは、どんなものなのだろう。
Planet Products代表・鈴木将司氏は、東京・中野区で年間約2,000人の髪と向き合っている美容師だ。
そのため、顧客から「どんなシャンプーがいいですか?」と聞かれることも多い。自信を持って勧められるものを探すためにサロン専売品から市販品まで、試したシャンプーは200〜300種類にのぼるという。
それでも、求めるものには出会えなかった。
「だったら、自分で作るしかない」
そうして構想を始めてから発売まで、約3年。試作の回数は、シャンプーだけで約40回。
生まれたのが「Hydration Rich Shampoo(ハイドレーション リッチ シャンプー)」だ。
しかし、その始まりは完成品とは似ても似つかないものだった。
洗えないシャンプー
構想が始まったのは2019年。
原料を集めることに約1年をかけ、2019年末、自らシャンプーの試作に着手した。
軸に据えたのは、PPT系界面活性剤。PPTは、タンパク質を加水分解して得られるペプチド(タンパク質加水分解物)の総称として、ヘアケア原料などに使われている。
Hydration Rich Shampooでは、コラーゲンやケラチンなどのタンパク質由来成分をベースとした洗浄成分を組み合わせている。
鈴木氏がPPT系原料に着目した理由のひとつが、毛髪との親和性があり、洗浄しながらダメージを受けた毛髪表面をコーティングするように働く性質だったという。
「アミノ酸を砂利一粒だとすると、PPTはその砂利がいくつもつながった塊のようなイメージです。ダメージを受けた毛髪に、その塊が吸着するようなイメージ*ですね」
* 作用機序のイメージ
ただし、理想とする原料を選んだからといって、そのままシャンプーになるわけではなかった。
「ビーカーに入れてブレンダーで混ぜて、“できた”と思って頭を洗うんですけど、ぬるぬるしているだけ。何も洗えていないんですよ(笑)」
泡立ちを補おうとすればヌルつきが出る。ヌルつきを抑えればパサついた仕上がりになる。
最初にできたのは「洗えないシャンプー」だった。
そこから3〜4ヶ月。
少しずつ処方の方向性は見えてきたものの、出来上がったのは「泥みたいな黄土色の、ドロドロした液体」だった。
見た目はともかく、目指す処方には近づいていた。

ところが、商品化を考えたとき、新たな問題が浮かび上がる。
鈴木氏によるとPPT系界面活性剤は、石油系やアミノ酸系の原料の数倍のコストがかかるという。
本当に、そこまで高い原料を使う意味があるのか。
そこで鈴木氏は確かめることにした。
原価を抑えたアミノ酸系の処方と、PPT系界面活性剤を使った処方。2種類を自作し、約50kgを試作した。そのうち約30kg分の評価を顧客100名に協力を依頼した。
どちらがPPT系かは伝えないブラインド方式で、約1ヶ月使用してもらった。
評価項目は、粘度、泡立ち、泡切れ、洗い流したあとのきしみ、トリートメントのなじみ、乾かす際の引っかかり、乾燥後のまとまりやツヤ、香りなど10項目。各10点満点で評価してもらい「200mLで3,000円の商品」と仮定したうえで、その価格に見合うかどうかも含めて判断を求めたという。
「もう、ぶっちぎりで人気だったのは原価の高い方でした。原価だけで1,000円以上違ったと思います」
「こっちしかないのか」
安く作る道は、この瞬間消えてしまった。高い原料を使ってでもPPT系の処方でいく。その決断を後押ししたのは、実際に試作品を使った顧客の反応だった。
完成はまだ遠い

自作した処方の土台をラボへ持ち込んだ。届いた試作品をみて鈴木氏は驚いた。
「今に近い、すごくきれいな透明の褐色だったんです。“こんなに美しくできるのか”って、ひとりですごくテンションが上がりました」
泥のような液体から、透明感のある褐色へ。
ただ、見た目が整ったことは完成を意味しない。
高濃度で配合した原料には特有の匂いがあり、香料の配合量を0.5%に固定した状態で香りを調整するだけでも、約4ヶ月を要した。
指通りを調整するための高分子ポリマーは、投入するタイミングや原料の混合条件によって液が濁ったり、ダマになったりする。保存条件によって沈殿が生じ、防腐設計が不十分だった段階ではカビが発生したこともあったという。
一つを直せば、また一つ崩れる。
シャンプーだけでも、処方が確定するまでに約40回の試作を重ねた。
2021年8月頃、ようやくシャンプーとコンディショナーの最終処方が確定した。試作を始めてから、1年半以上が経っていた。
そして構想開始から約3年後の2022年2月、ついに「Hydration Rich Shampoo」と「Hydration Rich Conditioner」は発売された。

シャンプーに配合されている洗浄成分は全体の約28%。そのうちPPT由来成分を含む原料は、製品全体の約22%を占めるという。
* 22%:PPT複合原料を含む「洗浄成分の原料液」としての配合量
ただし、鈴木氏が目指したのは、単純に「高濃度のシャンプー」を作ることではなかった。
配合量を増やせば、それだけ良くなるとは限らない。髪が硬くなったり、重くなったり、乾きにくく感じたりすれば、毎日使うホームケアとしては扱いづらい。
求める仕上がりにつながる濃度まで入れる。その一方で、毎日使い続けられる軽さも残す。そのバランスを探った。
「必要な被膜は残す設計思想なんです。水も空気も通りやすくて、流したときには落としやすい。その一方で、最低限の被膜はしっかり残せる。それがこの製品の特徴です」
鈴木氏が基準にしたのは、実際に髪に使ったときの仕上がりだった。
「今作れるものとしては完成形ですね。自分の中で、“これ以下は許さん”という最低ラインは超えています」
灰色の世界に彩りを

一方で、すべての人にHydration Rich Shampooが必要だと、鈴木氏が考えているわけではない。
ダメージやクセのないバージン毛では、そもそもここまでのケアを必要としない場合がある。油分による重さのある質感を好む人とは、目指す仕上がりが異なる可能性もあるという。
Hydration Rich Shampooが目指すのは、重さや油分で髪を抑え込むのではなく、必要なケアをしながらも、軽さを残すことだ。
そして、鈴木氏がもうひとつ減らしたいと考えているのは、毎日のヘアケアにかかる時間や手間である。仕事や家事を終えたあと、ヘアマスクやオイルまで重ねることが負担になる人もいる。
「ほんの5分でいいから、シャンプーしてトリートメントして、すっきりしたうえに髪もツルツルになっていたら、結構幸せじゃないですか」
新しいケアを次々に足すのではなく、毎日使うシャンプーとトリートメントの中で、できるだけケアを完結させる。
「きれいになるために、もっと頑張る」のではなく、毎日のケアをできるだけシンプルにする。

ただし、負担を減らすことと、そのための対価を払うことは、また別の話だ。
この商品は決して安くない。
Hydration Rich Shampooは4,620円(税込)。
コンディショナーとセットで購入すれば9,240円(税込)と、市販品に比べれば高価であるのは間違いない。
「高い原料を使っているから」「3年かけたから」
それだけを理由に選ぶ必要はない。
どれだけ手間をかけて作られたかと、その商品が自分に合うかどうかは、別の話だ。
大切なのは、その価格を支払ってでも、自分の髪や毎日のケアに必要だと思えるか。
「余計なアイテムを減らしてほしいというのはあります。“安物買いの銭失い”で、あれこれ試すところから、なるべく早く卒業してほしい」

鈴木氏がこの商品について語るとき、もう一つ印象的だった言葉がある。
「ストレスが溜まってくるとマジで景色が灰色になってきて、『何も楽しくない』みたいになる」
「そこに日々の彩りを一個増やすものを、私は作っているつもりでいる」
泡立たない泥色の液体から始まり、シャンプーだけでも約40回の試作を重ねて一本の製品になったHydration Rich Shampoo。
泥色だったシャンプーが、透明感のある琥珀色になるまで。
その3年間は、原料を選び、試し、失敗しながら、「毎日使うものとして心地よいか」を確かめ続けた時間だった。
| 商品情報 UiSCE|Hydration Rich Shampoo / Conditioner 300mL・300g|4,620円(税込)|Planet Products公式ECサイトにて販売 Hydration Rich Conditionerの開発については、次回あらためて鈴木氏に話を聞く。 |
取材・文/伊澤 樹璃
写真提供/Planet Products
編集後記
| この記事の冒頭に書いた、きれいになるために縮毛矯正をしたはずなのに、思い描いていた髪から遠ざかってしまった話。実は、私自身の体験です。 縮毛矯正をしたあと、髪が絡まりやすくなり、シャンプーをするたびに指が引っかかる。きれいになるために高いお金を払ったのに「何のために縮毛矯正をしたんだろう」と後悔するほどに。 それから1年半近く悩んでいた頃、X(旧Twitter)で縮毛矯正について発信していた鈴木氏の投稿を見かけ「縮毛矯正をしても髪が絡まる」と引用したことがあります。すると鈴木氏が、その原因として考えられることをとても丁寧に説明してくれました。 そして今、私はHydration Richを愛用しています。 今回取材をお願いしたのも「記事を書くために使った」のではなく、その逆。自分で購入して使い続けるなかで、この製品の使用感が気に入り、「なぜこんな仕上がりになるんだろう」と興味を持ち、今回の取材をお願いしました。 ほかの製品を試しても結局、これに戻ってきてしまいます。 もちろんこれは私個人の使用感であり、すべての人に同じ変化があるわけではありません。 それでも、鈴木氏の「日々の彩りを一個増やすものを、私は作っているつもり」という言葉は、愛用者としても印象に残りました。 私にとってHydration Rich Shampooは、すでにその「一個」になっています。 |
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\ Lilivère Presents /
読者プレゼント
この記事を読んで「使ってみたい」と思ってくださった方の中から、抽選で1名さまに「Hydration Rich Shampoo」「Hydration Rich Conditioner」のセットをプレゼントします。 今回の商品はPlanet Productsから提供を受けたものではなく、Lilivèreが通常販売されている商品を自費で購入してお送りします。 SNSへの投稿やレビュー、商品の感想提出などは応募条件ではありません。 プレゼント内容 Hydration Rich Shampoo 300mL×1本 Hydration Rich Conditioner 300g×1本 合計9,240円(税込)相当 応募期間 記事公開日〜2026年11月15日 23:59 応募方法 応募フォームはこちら 当選人数 1名さま 応募条件 この記事を読んでHydration Rich Shampooを使ってみたいと思ってくださった方 当選発表 2026年11月30日前後 商品到着時期 2026年12月20日頃 当選発表から少しお待たせしますが、Lilivèreからのささやかなクリスマスプレゼントとしてお届け! |
※本企画はLilivèreが独自に実施する読者プレゼント企画です。Planet Productsによる提供・協賛企画ではありません
※商品の使用感には個人差があります。
※SNSへの投稿、レビュー、商品に関する感想の提出等は当選・応募の条件ではありません。
※その他、応募規約・個人情報の取り扱いについては応募フォーム最下部の応募規約をご確認ください。

※これ以降も6月末に鈴木さまのサロンにて2セット購入しております。
